ロールモデルとしての自分

みらいの森のプログラムでは、このような子どもたちが、自分の意思によって、物事を考え、決断し、行動するための機会を提供してきました。一人一人が真の自分を見つけ、向き合い、そこでの学びを自身の成長につなげられるような環境をつくり上げてきました。

また、みらいの森では、子どもたちと、組織としてではなく、「個人」としてのつながりを、大事にしています。名前や性格を知るだけでなく、一人一人の意見や考え方を尊重し、そこからの行動をサポートすることを大切にしています。小学生が中学生になっても、さらに高校生になっても、「みらいの森に参加したい」、そして施設を退所した後も「つながり続けたい」、と思ってくれるのは、私たちみらいの森のメンバーが、一個人として、子どもたちとの関係を築くことができているからです。

これは、長年にわたって私たちのプログラムに参加してきたキャンパーRの職員さんやみらいの森のスタッフの声を通して語られる物語です。

職員さん
Rは幼稚園の頃からとても活発な子でした。部屋の中で側転をしたり、ソファの上で飛び跳ねたり、食事の時に椅子に座っていられなかったりと、本人も困るくらい常に体が動いていました。買い物に行くと、お店に入った瞬間に、自分が興味のある方向へ向かい、姿を消してしまいます。興味がないものはほぼ頭に入ってこず、嫌がりました。小学校に入っても、「面倒くさい」と言ってお風呂に入らなかったり、遊びに夢中になって食事を食べなかったりすることもよくありました。物に対しての関心も薄く、自分の物なのか他人の物なのかの区別がつかなかったり、物がそこら中に散らばっていても違和感を感じないようでした。ふで箱の中身が他の子の物と入れ替わって帰って来ることもよくありました。

また、知らない大人に対しては強い不信感を持っていました。「なんて言えばいいかわからない」、「伝わらないかもしれない」、「怒られるかもしれない」と思ってしまい、人に話しかけることを嫌がりました。レストランでも怖くて注文できず、職員に代わりに注文してもらうか、食べることを諦めてしまうこともありました。

このような子だったので、職員としても気軽に外出させることができませんでした。しかし、施設内にいるだけでは、Rが社会で生きていく上で必要な力を学ぶ機会を奪ってしまうと考え、あえて外とつながる実践重視の養育を意識しました。みらいの森に参加させたのも、これが理由でした。

みらいの森スタッフ
Rがみらいの森に初めて参加したのは小学4年生の時で、最初はとてもシャイでした。自分から他の施設の子どもたちに声をかけることはあまりなく、スタッフが話しかけても一言二言で返事をするだけでした。初めて会ったサマーキャンプではとても消極的で、発表してもらうのも一苦労でした。少し慣れてきてから、私の膝に座ったRが、たまに小さい声で話してくれるようになった時のことをまだ覚えています。それでも、アクティビティーには興味を持ってくれて、自分なりの方法で参加し、楽しんでくれていました。

サマーとウィンターキャンプも含め、何度もプログラムに参加するにつれて、年々、みらいの森に慣れてきて、自分から手を挙げて発表したり、スタッフや他の施設のキャンパーともお話ししたり、初めてのキャンパーに色々と教えてあげたりと、存在感が増してきました。高学年になってからはLIT(リーダー実習プログラム)に憧れて、よく緑のシャツを横取りしてはLITのまねごとをしていました。LIT終了式に、特別「ミニLIT」として参加し、大人の参加者が大勢いる中で、ランチの準備やサービングを手伝ってくれた年もありました。

職員さん
みらいの森に参加し始めた最初のころは、プログラム中にわからないことがあると、職員に聞きにきていましたが、いつの頃からか、プログラム中に本人と話をした記憶が無いほど、職員ではなく、直接、みらいの森のスタッフに聞きに行くようなりました。日常の生活でも「Responsibility!」と言って、自分のおもちゃを片づけたり、学校の林間学校で「みらいの森で宿泊には慣れているから」と言って部屋のリーダーに立候補したりと、少しずつ変化が見られ始めました。また、キャンプ中に出会った他の施設の同学年の子どもたちの立ち振る舞いや整理整頓の影響を受け、日常の中でも、時折、自発的に「部屋汚くなっちゃったから片付けようかな」とか「次のキャンプまでに自分で頭とか洗えるようになったほうがいいよね」という発言がみられ始めました。

みらいの森に定期的に参加することで、プログラムへの移動中にも大きな学びの機会がありました。公共交通機関を利用する際には「降りる人が優先」「リュックはお腹側に持つ」「大声で話をしない」「優先席は譲る」など、社会のマナーや多くの社会人の対応を目にすることができました。また、乗り換えなどの自分のほしい情報を得るには、車内放送を聞くなり、掲示板や停車駅で駅名を確認するなりし、それでもわからない時は駅員さんに聞くなど、外に意識を向ける機会が増えました。

みらいの森スタッフ
Rは中学生になっても、定期的にプログラムに参加してくれています。みらいの森のプログラムの事もとてもよく知っているので、年下や初めてのキャンパーに教える側になり、いつの間にかリーダーとして活躍し始めています。他のキャンパーやスタッフともよくお話しするようになり、進んでチームネームや点呼として使うヘッドカウントを提案し、初めて参加する企業のボランティアの人にも説明してくれるようになりました。プログラム中に自分がやりたい事があっても小さい子にすぐに譲るし、「あの子大変なんだよ」と言いながらも、自分のチームの元気なキャンパーにも気を配り、チームのまとめ役になっています。ただ遊びに来るのではなく、責任のある役割を果たすために来てくれている感じです。

職員さん
定期的に外とのつながりを保ち続けてきたRは、中学生になり大きく成長しました。レストランでも1人で注文できるようになり、さらには本屋で手に入れたい本を注文して手に入れられるようにまでなりました。また、自分の物と人の物の区別がはっきりとつくようになり、自分の物ではないものが自分の場所にあることに、気づくようにもなりました。「自分が大切にしたい空間はこういう配置にして、こう整えたい」という考えも芽生え始めてきています。宿泊や遠出の際には自分で荷造りをするようになり、自分にとって必要な服の枚数や種類や小物を、自分で決められるようになりました。さらには、自分だけでなく他の人が必要になるであろう物を想像し、用意してくれるようになりました。

みらいの森スタッフ
Rはみらいの森に5年以上参加し続けてくれていますが、プログラム内で見るだけでも着実にできることが増えてきていて、頼りになる存在になっています。今ではすっかりプログラムの常連となり、顔なじみのスタッフだけでなく、新しいキャンプスタッフとも自分から進んでお話ししています。みらいの森がRの成長過程の一部に役立てたことをとてもうれしく思います。来年、高校生になるRは、「LITとしてみらいの森に参加し続けたい」と言ってくれています。これからも、さらに新しい体験と学びの場を提供し、成長を見守り続けたいと思います。