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副理事ジェフ・ジェンセン:JOLAインタビュー記事

(JOLA2020受賞者インタビュー記事抜粋)

ジェフさんが生まれ育ったのは、アウトドアの盛んなカナディアンロッキーの町バンフ。日本へ最初に来たのは1993年だ。当時、バンフにはたくさんの日本人観光客が来ていた。日本語ができれば、日本人対象のアウトドアガイドとして仕事ができると考え、ワーキングホリデーで日本へ語学留学した。だが、言葉の習得は想像以上に難しかった。せっかくの機会だから日本の自然も満喫しておきたい。そこで得意なスキーの技術を生かし、志賀高原で働きながら日本語を学ぶことにした。オフシーズンは大工のヘルパーをするなどして日本中を旅した。その後、関東でラフティング会社やボルダリングの会社を興し、現在はアウトドア用品の卸・販売会社ノマディクスの取締役を務めている。

そんな彼が、仕事とは別にパッションとして追いかけ続けている取り組みがみらいの森だ。児童養護施設の子どもたちに、自然体験を通じて生きる力を身につけてもらう活動である。

「いろいろな事情で親がいなかったり、別れて暮らさなければならない児童養護施設の子どもたちというのは、準備ができているかどうかに関わらず、原則として18歳で自立を迎えます。施設は彼ら彼女たちにとって家、一緒に暮らす子どもたちは家族のような存在ですが、施設に居続けることはできません。その早すぎる自立を乗り越えるためには、生きる力が必要です。人が幸せに暮らしていくためにはコミュニケーション力、判断力、協調性などいろいろ力が必要だと考えられていますが、僕はいちばん大事なのは自分に対する自信だと思うのです。つまり自分の道を自分で切り拓こうとする挑戦心。自然という非日常的な環境の中で、天気の急変など予測不能なことや小さなトラブルが普通に起きるキャンプを体験すると、困難に直面してもすぐにはあきらめない自信、レジリエンスが磨かれます」

キャンプリーダー体験は将来への大きな自信になる

 施設単位で子どもたちを招待し、テント泊を基本にハイキング、沢登り、野外調理などを楽しむ。プログラムは年々進化し、近年では日帰りの週末プログラムを導入すると同時に、体験できるメニューも木こり体験、ラフティングなどが加わり多彩になった。イースターやハロウィンのような多文化的な催しも取り入れている。

施設の退所年齢が近づいた高校生は、リーダー実習生としてプログラムに参加する。自然の中で生じた予測の難しいトラブルに向き合い、チームとして、またリーダーとして解決できたときの喜びは後々の自信になる。大人の指示を待たなければ動けない若者ではなく、積極的に自分から課題に挑戦できる若者を育てることも、みらいの森の大きな役割だと思っている。

 

「じつは、僕のお母さんも生まれてすぐに実の親から引き離されたんですよ。虐待が理由でした。養子に貰われたんですが、その育ての親も暴力を振るう人で、母は18歳のときまでずっと我慢をしていました。僕がそのことを知ったのは成人してからでした。母は苦労して僕たち兄弟を育てくれ、その傍らボランティアも熱心に行なっていました。とくに高齢者を助ける活動でしたが、そんな母を見ていたせいか、僕もいつの間にか自分が得意なアウトドアを通して、日本社会にgive backしたいという思いを持つようになったのだと思います」

児童養護施設に入所している子どもの事情はさまざまだが、近年では虐待の割合も増えている。日本全国に約600ある施設は、職員や関係者の多大な尽力のもと、子供たちが安心して暮らせる居場所になっているが、多くの子どもたちは世間からの偏見と不十分な支援という、限られた世界での生活を強いられている。

少しでも子どもたちの、また職員さんの力になりたい。一緒に子どもたちを見守り、育む存在になる――というのがジェフさんが自分に課したミッションである。

「みらいの森では、複数の施設がキャンプに同時に参加できるようにしています。なぜかというと、施設同士の交流も大事だから。子どもたちにとって施設はファミリー。一緒に過ごすためのルールもたくさんあるんですが、そのルールはほかの施設とは必ずしも同じではないのですね。自分の家のルールしか知らないと視野が狭くなってしまいます。違う施設の子たち、また国際色あふれるスタッフと仲良くなると、社会には自分たちと違う決まりややり方、考え方があることが見えてくる。職員の方もキャンプは情報交換のよい機会だと言ってくれています。いいやり方があると、お互いに積極的に取り入れることもできます」

価値観の違いだけルールがある。みんな違ってみんないい

キャンプをサポートするスタッフには外国人が多い。そういったメンバーとの異文化交流も子どもたちの知見や視野を広げる大きなきっかけになっている。世の中にはさまざまな人たちがいて、それぞれが異なる考えを持つ。自分が常識だと思っていたことが、必ずしもそうではないということにも否応なしに気づかされる。

そうした文化の違いをジェフさんが示すときに使うひとつの愉快な方法が、ピーナッツバターとジャムを混ぜたサンドイッチだ。北米では一般的な食べ方だが、みらいの森に参加する子どもたちは「そんな食べ方は今まで見たことがない」「なぜ甘いものをふたつ混ぜるの?」ととても驚く。そのサンドイッチを、ジェフさんが食事の前からおいしそうに食べると、変な食べ方だ、デザートは食事の後に食べるのが決まりだと子どもたちは口々に言い立てるが、彼は待っていましたとばかりにこう答える。

「僕は、自分が美味しいと思うものを食べたいときに食べられれば幸せ! 変じゃなくて、 Interesting! That’s new!(面白い!斬新!)ということだよね。みんながカナダへ行って、日本のいつもどおりの食べ方をしたら変だと驚かれるかもしれないよ。ルールって自分でよく考えて決めるもの。それによって迷惑がかかる人がいなければ、違ったやり方、考え方もありなんだよ。十人十色だからね」

そういうと、子どもたちも少しずつ真似をし始め、「意外とおいしい」「いけるじゃん」と歓声をあげる。体験を通して子どもたちの意識が少しずつ変わり、自分に対して自信を深め始める様子が見えたとき、この活動を続けてきてつくづくよかったとジェフさんは思う。

取材・文/鹿熊 勤(本文:JOLAウェブサイト2020年受賞者紹介ページ